ご飯。味噌汁。季節の野菜。豆腐。海藻。漬物。
私たち日本人にとって、
あまりにも身近な食卓です。
「和食は健康によい」という話も、
世界で知られるようになりました。
でも、この1週間、
旬、
いただきます、
発酵、
お盆、
自然への感謝
と見てきた今、
和食を眺めてみると、
少し違ったものが見えてきます。
和食とは、
「何を食べるか」だけではなく、「生命と、どのように暮らすか」
を伝えてきた文化なのではないでしょうか。
2013年、
「和食」はユネスコ無形文化遺産に登録されました。
でもユネスコが登録したのは、
寿司でも、
天ぷらでも、
懐石料理でもありません。
登録されたのは、
“Washoku, traditional dietary cultures of the Japanese”
つまり、日本人の伝統的な食文化そのもの。
ユネスコは和食を、
食材の生産、
加工、
調理、
食べ方に関する
知識、技術、慣習、伝統を含む
社会的な営みとして紹介しています。
そして、その根底にあるものとして、
「自然を尊重する精神」を挙げています。
和食とは、一皿の料理ではなく、
自然と人間との関係を含んだ
「暮らし方」だったのです。
春には、山菜や若い葉。
夏には、みずみずしい野菜。
秋には、きのこや実り。
冬には、根菜など。
日本の食卓は、
季節とともに変化してきました。
今のように一年中
同じ食材が手に入らなかったからこそ、
人は、「今、自然から何をいただけるのか」
を見ながら暮らしていました。
旬をいただく。
それは単に、おいしいものを食べるだけではありません。
自然の時間と、人間の暮らしを合わせる知恵。
それが和食の中にあります。
料理が食卓に並んだら、「いただきます。」
そして食べ終わったら、「ごちそうさま。」
食べ物があること。
作ってくれた人がいること。
育ててくれた人がいること。
そして、
生命をいただいて自分が生きていること。
食べる前と後に
言葉を添える文化は、
食事を単なる栄養補給ではなく、「受け取る営み」
として感じさせてくれます。
味噌。醤油。酢。納豆。漬物。
日本の食卓には、
目に見えない微生物の働きが
たくさん生かされています。
人間がすべてをつくるのではなく、環境を整え、
生命が働くのを待つ。
そして、その力を借りる。
和食の中には、人間だけで完成させようとしない知恵があります。
おばあちゃんの味噌汁。
母の煮物。
地域のお祭りで食べた料理。
お正月のお雑煮。
同じ「和食」でも、家庭によって、地域によって、
味は違います。
そして、その味は、レシピだけでなく、
一緒に料理をし、一緒に食べることで
人から人へ伝わってきました。
ユネスコも、
和食の知識や技術が
家庭の食卓などを通して
次世代へ伝えられてきたことを
大切な特徴として挙げています。
つまり食卓は、
生命を育てる場所であると同時に、
文化を次へ渡す場所でもあったのです。
旬。地域の食材。山菜。海藻。野菜。魚。米。
和食の食卓を眺めると、
そこには、海、山、川、田んぼ、畑、さまざまな自然があります。
日本人は、自然から食材を「取る」だけではなく、
季節を感じ、恵みに感謝しながら
暮らしてきました。
だから和食の根底には、「自然と人間を切り離さない」
という考え方があるのかもしれません。
もちろん、
「日本の文化だから素晴らしい」
というだけでは、
生命力ジャーナルでは終わりません。
現代科学でも、
日本の食事パターンと健康について
研究が続けられています。
2020年に発表された
日本の大規模コホート研究では、
米、味噌汁、海藻、漬物、
緑黄色野菜、魚、緑茶などを含む
日本型食事への順守度が高い人ほど、
全死亡および心血管疾患死亡のリスクが
低いこととの関連が報告されました。
そして2026年には、
約8万7千人の日本人を
平均19年間追跡した研究で、
主食・主菜・副菜などの
日本の「健康な食事」の考え方に
より沿った食生活をしていた人ほど、
全死亡リスクが低いという関連が報告されています。
ただし、ここで大切なのは、「和食を食べれば長生きする」
と単純に結論づけないことです。
これらは主に観察研究であり、
生活習慣など他の要因も関係します。
そして伝統的な日本食には、もう一つ重要な課題があります。
味噌。醤油。漬物。塩蔵食品。
日本の食文化には、
保存の知恵として
塩が重要な役割を果たしてきました。
しかし現代では、
塩分の摂り過ぎは
高血圧などのリスク要因になります。
実際、近年の研究では、
日本食のよい特徴を生かしながら、
塩分の多い食品を控えた
新しい日本型食事
についても検討されています。
2025年に発表された
約9万3千人を対象とした研究でも、
従来の日本食だけでなく、
塩分を抑えた日本型食事パターンが検討され、
高い順守度と、
より低い全死亡・心血管疾患死亡リスクとの
関連が報告されています。
これは、とても大切な視点だと思います。
伝統を大切にするとは、
昔とまったく同じことを続けることではない。
先人の知恵を受け取りながら、現代の科学から学び、
今を生きる私たちに合う形へ育てていく。
それもまた、文化を未来へつなぐことではないでしょうか。
ここまで見てくると、
和食の豊かさは、栄養素だけでは
測れないことに気づきます。
旬を知る。
自然に感謝する。
生命をいただく。
微生物の力を借りる。
家族で食卓を囲む。
地域の味を伝える。
そして、
次の世代へ渡していく。
食べることが、
自然、人、地域、過去、未来をつないでいる。
これこそが、
和食が長い時間をかけて
育ててきた知恵なのかもしれません。
健康情報があふれる時代です。
「これを食べるとよい。」
「これは避けたほうがよい。」
「この栄養素が必要。」
もちろん、科学的な知識は大切です。
でも、それだけで食を考えてしまうと、
食べることが、
「健康になるためにやること」になってしまうことがあります。
和食の知恵が教えてくれるのは、
もう少し大きな世界です。
食べることは、生きること。
自然とつながること。
人とつながること。
過去から受け取り、
未来へ渡すこと。
健康は、その豊かな暮らしの中から
育っていくものなのかもしれません。
今日の食卓を、
栄養素ではなく、
「つながり」
という目で眺めてみませんか。
この野菜は、
どこから来たのだろう。
この味噌は、
どんな微生物の働きでできたのだろう。
この料理は、
誰から教わったのだろう。
そして、
「この食卓から、私は何を未来へ渡したいだろう?」
一つだけ考えてみてください。
それはレシピでなくてもかまいません。
「いただきます」かもしれません。
旬を楽しむことかもしれません。
家族で食卓を囲むことかもしれません。
あなたが大切にした一つが、
次の世代の「食文化」になるかもしれません。
和食とは、
何を食べるかだけではなく、
生命とどう暮らすかを伝えてきた文化。旬をいただく。
命に感謝する。
目に見えない生命と共に生きる。
自然から受け取り、
人から人へつないでいく。食べることは、生きること。
そして食卓は、
生命を未来へつなぐ場所。
この6日間、日本人が育んできた生命力を
見つめてきました。
旬。いただきます。発酵。お盆。
そして和食。
一つ一つは違う文化のように見えます。
でも、その奥には、
「人間は、一人だけで生きているのではない」
という共通した生命観が
流れているように思います。
では、この日本の知恵を、
懐かしい「昔の文化」として
残すだけでよいのでしょうか。
明日は、いよいよ最終日。
「Rawfood道 ― 日本の生命の知恵を、未来へ」
世界から学んできたRaw Foodと、
日本人が育んできた
自然、感謝、発酵、つながりという生命観。
この二つが出会った先に、
これからの時代の
新しい「食の道」が
見えてくるかもしれません。
UNESCO Intangible Cultural Heritage
“Washoku, traditional dietary cultures of the Japanese”
和食を、自然を尊重する精神と結びついた食の生産・加工・調理・消費に関する知識、技術、慣習、伝統として紹介。
Japan Public Health Center-based Prospective Study(2020)
“Association between adherence to the Japanese diet and all-cause and cause-specific mortality”
日本型食事への順守度と全死亡・心血管疾患死亡との関連を調べた大規模コホート研究。
Journal of Epidemiology(2026)
“Association Between Adherence to the Japanese Meal-based Dietary Guideline and All-cause and Cause-specific Mortalities”
約8万7千人を平均19年間追跡し、日本の食事ガイドラインへの順守度と死亡リスクとの関連を検討。
生命力ジャーナル
Life Force Journal
― 世界の健康研究から、生命力を読み解く ―