「いただきます。」
日本では、子どもの頃から何度となく口にしてきた言葉です。
あまりにも日常的なので、
深く意味を考えることなく言っている方も多いかもしれません。
でも今日は、食べる前にほんの少し、
この六文字の前で立ち止まってみたいと思います。
私は、何を「いただいて」いるのでしょう。
「いただきます」は、
「いただく」という謙譲語から生まれた言葉です。
もともと「いただく」には、
自分より上のものから、敬意をもって受け取るという意味があります。
そして食事の「いただきます」には現在、
料理を作った人だけでなく、
野菜を育てた人、食材を運んだ人など、
食卓に届くまでに関わった人々への感謝、
そして、食べ物そのものへの感謝が込められた言葉として使われています。
日本では幼い頃から、
家庭や保育園、幼稚園などでこの言葉に親しんでいます。
毎日使っている、ごく普通の言葉。
けれど、考えてみると、
とても深いことを私たちは口にしています。
「私は、いただいて生きています。」
目の前に、一つのりんごがあるとします。
私たちは普段、
「ビタミンがある」
「食物繊維がある」
「ポリフェノールがある」
といった「栄養」という視点から、
食べ物を見ることが多くなりました。
でも、少し視点を変えてみましょう。
このりんごがここに来るまでに、
種があり、
土があり、
雨が降り、
太陽が照り、
花が咲き、
蜂などの生きものが関わり、
実が育ち、
農家の方が育て、
誰かが収穫し、
誰かが運び、
誰かがお店に並べました。
そのすべてがつながって、今、一つのりんごが、私の手の中にあります。
そして私はそれを食べ、
その食べ物から得たものを使って、今日を生きていきます。
そう考えると、食べることは、
世界とのつながりを自分の中に受け取ること
とも言えるのではないでしょうか。
JLBAが大切にしている
「生命力」という視点から見ると、
食事はとても不思議な営みです。
私たちは、自分だけで生命をつくることはできません。
野菜をいただく。
果物をいただく。
穀物や種子をいただく。
水をいただく。
それらを身体に迎え入れながら、私たちは毎日生きています。
昨日の記事では、「旬をいただくことは、季節をいただくこと」
とお伝えしました。
今日は、もう一歩進めて、
「食べることは、他の生命や自然の恵みを受け取り、自分の生命をつないでいくこと」
と考えてみたいのです。
そうすると、
「いただきます」という言葉が少し違って聞こえてきませんか?
そして、とても興味深い研究が、今年、日本から発表されました。
2026年7月、学術誌『Appetite』に、日本の研究者たちによる
「Gratitude for Food(食への感謝)」についてのスコーピングレビューが発表されました。
これは、日本と海外で行われてきた
「食への感謝」に関する研究を整理したものです。
レビューでは、食への感謝が、
・より健康的な食行動
・マインドフルな食事
・食品ロスの削減
などと関連して研究されてきたことが報告されています。
一方で研究者たちは、
測定方法がまだ統一されていないことや、
今後さらに研究が必要であることも指摘しています。
つまり、「感謝すれば健康になる」と単純に言える段階ではありません。
けれど、「どんな気持ちで食べるのか」も、
食と健康を考える一つのテーマになり始めている。
これは、とても興味深いことではないでしょうか。
健康を考えるとき、私たちはどうしても
何を食べるか。
何を減らすか。
何を増やすか。
ということに意識が向きます。
もちろん、とても大切です。
でも生命力という視点から考えるなら、
もう一つ問いを加えてみたいと思います。
「私は、どんな心で食べているだろう?」
スマートフォンを見ながら急いで食べる一食と、
目の前の食べ物を見て、「今日も私のところまで来てくれてありがとう」
と思っていただく一食。
同じ料理でも、食べるという体験そのものは
違ってくるかもしれません。
私たちは、一人で生きているように感じることがあります。
けれど、一回の食事を眺めただけでも、
太陽、
水、
土、
植物、
微生物、
農家の人、
運ぶ人、
料理する人。
数えきれない存在に支えられています。
生命力とは、
自分一人の中だけにある力ではなく、
世界との関係の中で育っていく力なのかもしれません。
「いただきます」は、そのことを毎日思い出させてくれる、
日本の小さな習慣なのではないでしょうか。
今日の食事では、
いつものように「いただきます」と言う前に、
3秒だけ、目の前の食べ物を見てみませんか?
そして、「これは、どこから来たのだろう?」と想像してみてください。
土。太陽。雨。育てた人。運んだ人。料理してくれた人。
そして、目の前の食べ物。
それから、「いただきます。」と言ってみる。
いつもの六文字が、
少し違って感じられるかもしれません。
私は、いただいて生きている。
太陽をいただき、
水をいただき、
大地の恵みをいただき、
植物の生命をいただき、
人の働きをいただいて、今日の私の生命がある。
「いただきます」は、
そのつながりを思い出す言葉。
健康とは、
自分の身体だけを守ることではなく、
自分を生かしているものとのつながりを
大切にすることなのかもしれません。
明日は、「発酵―目に見えない生命と生きる」について考えます。
味噌、醤油、納豆、漬物。
日本人はずっと昔から、
目には見えない小さな生命の働きを
食卓に取り入れてきました。
現代科学が「腸内細菌」「マイクロバイオーム」を研究するずっと前から、
私たちの食卓には、
人間だけではつくれない生命の営みがありました。
明日は、そんな「共に生きる生命力」を探ってみたいと思います。
2026年7月発表
Kawasaki Y, Nagao-Sato S, Yoshii E, Akamatsu R.
“Gratitude for food as a driver of improved dietary behaviors: A scoping review”
Appetite, 2026.
▶ PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42401398/
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