「私には、これくらいしかできない。」そう思ったことはありませんか?
それは、いつ、誰が決めたのでしょう。
これまでの経験でしょうか。
一度の失敗でしょうか。
誰かに言われた言葉でしょうか。
それとも、長い年月の中で、いつの間にか自分自身が決めてしまったことなのでしょうか。48歳の美咲は、今、その問いに出会っています。
高校生の頃、美咲には夢がありました。
医師になること。
病気がちな弟を元気にしたい。看病する母を助けたい。誰かの命の役に立ちたい。
そんな願いがありました。
しかし、大学受験で希望は叶わず、医師になる夢を諦めました。
その後、美咲は結婚し、子どもを育て、家庭と仕事を両立させながら、懸命に生きてきました。
それは決して価値のない人生ではありません。
家族を支え、仕事を続けてきた日々も、美咲の大切な人生です。
けれども、美咲はいつしか、
「私には、これくらいしかできない。」と思うようになっていました。
医師になれなかったことと、自分にはほかの可能性がないこと。
本来、この二つは同じではありません。
ところが私たちは、一つの経験を、自分の人生全体の結論にしてしまうことがあります。
美咲が第11話で発見したのは、まさにこのことでした。
「医師になる夢は終わったとしても、私の願いまで終わったの?」
その問いによって、30年間しまい込んでいた自分の可能性が、少しずつ開き始めたのです。
美咲のような女性の人生を考えるとき、個人の気持ちだけでなく、社会の現実を見る必要があります。
●内閣府の2026年版「男女共同参画白書」によると、2025年の15〜64歳女性の就業率は75.3%。
20年前の2005年と比べて、17.2ポイント上昇しています。
女性が仕事を続け、社会で活躍する機会は確実に広がってきました。
一方で、女性の正規雇用比率は25〜29歳をピークに、年齢が上がるにつれて低下する傾向があります。
これは「L字カーブ」と呼ばれています。
また、2025年には、もっと長く働きたい、あるいは仕事を増やしたいと希望する女性が133万人いました。そのうち45〜54歳の女性は39万人です。
つまり、働く女性が増えている一方で、希望する働き方を十分に実現できていない人もいるのです。
ここで考えたいことがあります。
社会に参加していることと、自分が望む人生を選択できていることは、必ずしも同じではない。
仕事をしているか、していないか。
正社員か、パートタイムか。
その違いだけで、人生の価値を決めることはできません。
大切なのは、一人ひとりが置かれた環境の中で、自分の願いや可能性を見つめ、それを選択できる機会があるかどうかではないでしょうか。
美咲は幼い頃から、病気がちな弟を気遣い、母を助けようとしてきました。
大人になってからも、家族を優先し、自分のことは後回しにする習慣がありました。
しかし、このような役割は、女性一人ひとりの性格だけで生まれるのでしょうか。
●総務省の2021年「社会生活基本調査」をもとにした内閣府の分析では、6歳未満の子どもがいる共働き夫婦でも、家事・育児・介護・買い物などに費やす時間の77.4%を妻が担っていました。
もちろん、家庭の事情はそれぞれ違います。
それでも、社会全体として家庭内の役割が女性に偏っていることは、見過ごせない現実です。
「私がやらなくちゃ。」
「家族に迷惑をかけてはいけない。」
「自分のことは、みんなが落ち着いてから。」
こうした考え方が長く続くと、自分の希望を考える時間さえ持てなくなることがあります。
だからこそ、自分の可能性を開くことを、本人の努力だけに任せてはいけないのだと思います。
家族が役割を分かち合うこと。
周囲の人が新しい挑戦を応援すること。
地域に、安心して学び、つながれる場所があること。
一人の人生の可能性は、人と人との関係の中でも開かれていくのです。
もう一つ、注目したいデータがあります。
●2026年版「男女共同参画白書」では、仕事や職業キャリアに関する学び直しについて、学ぶ意欲がある女性の約7割が、過去1年間に実際には学んでいなかったと報告されています。
その障壁として挙げられているのは、
時間がないこと。
経済的な余裕がないこと。
何を学べばよいかわからないこと。
女性では特に、家事などで時間が取れないという回答が男性より多く見られます。
これは、とても重要な問題です。
「学びたい」と思っても、学ぶ機会がない。
「変わりたい」と思っても、何から始めればよいかわからない。
そのような人に、「勇気を出して挑戦しましょう」と伝えるだけでは、十分ではありません。
必要なのは、新しい世界に出会える具体的な機会と、それを支える人とのつながりです。
学び直しとは、資格を増やすことだけではありません。
自分の関心を発見すること。
知らなかった人や考え方に出会うこと。
今までの経験を、新しい形で社会に生かすこと。
そして、これまでの自分には想像できなかった未来を創作していくことでもあるのです。
ここで、一つの自然の姿を思い浮かべてみてください。
芋虫と蝶です。
地面や葉の上を進んでいた芋虫は、やがて変態を経て、空を飛ぶ蝶になります。
もし芋虫が、これまでの自分の経験だけから未来を判断するとしたら、空を飛ぶ姿を想像できるでしょうか。
これは、人間の人生にも通じる比喩だと思います。
私たちは、これまでに経験したことをもとに、自分の能力や未来を判断します。
「私は、こういう人間。」
「今までできなかったのだから、これからもできない。」
しかし、それは本当に未来のすべてを知ったうえでの判断でしょうか。
もちろん、人間の人生は蝶の成長のように、決められた姿へ変わるわけではありません。
誰もが望む結果を得られるわけでもありません。
それでも、今の自分が知っていることだけで、未来の可能性のすべてを決める必要はないのです。
まだ経験していない自分を、私たちはまだ知らない。
それが、第11話で美咲が出会った発見でした。
DAY3で、美咲は自転車の練習をしている子どもに出会いました。
「やっぱり、できないよ!」
その言葉を聞いて、美咲は幼い頃の自分を思い出します。
最初は怖かった。
何度もふらついた。
自分には無理だと思った。
それでも、いつしか自転車に乗れるようになっていた。
子どもの頃は、まだできないことに出会うのが当たり前でした。
ところが、大人になると、失敗を避けるために、挑戦する前から結果を予測することがあります。
経験は私たちを助けてくれます。
しかし、ときには、その経験が新しい可能性を考える範囲まで狭めてしまうこともあるのです。
美咲は、ふと考えます。
「いつから私、やる前に無理だって決めるようになったんだろう。」
この問いは、美咲の人生を否定するものではありません。
むしろ、ここまで生きてきた自分を認めたうえで、まだ知らない未来に目を向ける問いなのです。
私たちJLBAが大切にしている「命を讃える」。
それは、夢が叶った人だけを讃えることではありません。
困難を乗り越えた人だけを評価することでもありません。
夢を諦めた経験も、思うようにいかなかった日々も、その人の大切な人生です。
そして、これからの人生にも、どのような出来事がやってくるかはわかりません。
それでも、「これは、私の人生だ。」
と、自分の人生を引き受け、そこから新しい選択を創っていく。
私たちは、その立場を大切にしたいと思っています。
自立とは、一人で何もかもできるようになることではありません。
人とつながり、支え合いながら、自分の人生を自分で選択していくことです。
美咲がこれからどんな道を歩くのか、まだわかりません。
新しいことに挑戦して、うまくいかないこともあるでしょう。
思いがけない人との出会いが、人生を変えることもあるかもしれません。
けれども、美咲は一つ、大切なことを発見しました。
「私、今までの自分しか知らなかったんだ。」
そして、こう言いました。
「私、まだ知らない自分に出会ってみたい。」
この言葉から、美咲の新しい人生が始まります。
最後に、あなたにも問いかけてみたいと思います。
これまでの人生で、「私には無理」と諦めたことはありますか?
そのとき諦めたのは、一つの方法だったのでしょうか。
それとも、その先にあった自分の願いまで、終わったことにしてしまったのでしょうか。
今すぐ、新しいことを始めなくてもよいのです。
まずは、かつての自分が大切にしていた願いを、思い出してみてください。
そして、問いかけてみてください。
「私がまだ知らない私は、どんな私だろう?」
その問いが、あなた自身の新しい可能性を発見する始まりになるかもしれません。
私の未来は、まだ決まっていない。
命を讃えて、Be You。
美咲の物語はこちらより
日本リビングビューティー協会(JLBA)
内閣府「令和8年版 男女共同参画白書」特集:人生100年時代における生活や社会構造の変化、学び直しの現状と分析
内閣府「令和5年版 男女共同参画白書」特集:仕事・家事・育児の分担
総務省「令和3年 社会生活基本調査」