道を歩いていたら、金木犀の香りがした。
ふと足を止めて、
「ああ、秋が来たんだな。」と思った。
忙しく過ごしていた一日なのに、その瞬間だけ、少し時間がゆっくり流れたように感じる。そんな経験はありませんか。
私たちの毎日には、心が動く瞬間がたくさんあります。
けれども、急いでいると、そのほとんどに気づかず通り過ぎてしまいます。
好きな音楽を聴いたとき。
誰かの優しい言葉に触れたとき。
きれいな夕焼けを見たとき。
思いがけない出来事に驚いたとき。
心が動くのは、何か大きな出来事があったときだけではありません。
一つの果物を切ったとき、その色の美しさに見とれることもあります。
初めて食べたものが思いがけずおいしくて、思わず笑顔になることもあります。
その瞬間、私たちはただ情報を受け取っているのではありません。
自分自身が、何かを感じているのです。
アメリカの心理学者バーバラ・フレドリクソンは、喜びや興味などのポジティブな感情が、人の思考や行動の選択肢を広げる可能性を示す理論を提唱しました。
うれしいとき、誰かと話したくなる。
興味を持ったとき、もっと調べたくなる。
楽しいとき、もう一度やってみたくなる。
感情は、ただ心の中に生まれて消えるものではなく、その後の行動にも関わっているのです。
もちろん、いつも明るく前向きでいる必要はありません。
悲しみや不安も、大切な自分の感情です。
ここで大切なのは、どんな感情が正しいかではなく、
「私は今、何を感じているのだろう?」
と気づくことです。
私たちは大人になるにつれて、
何が役に立つか。
何が正しいか。
何をしなければならないか。
そんなことを考える時間が増えていきます。
それも生活には必要なことです。
でも、その間に、
「私は何が好き?」
「何に心が動く?」
という問いを忘れてしまうことがあります。
生命力は、特別なことを成し遂げたときにだけ発見できるものではありません。
自分の心の動きに気づくことも、自分自身を知る一つの体験です。
今日は、いつもと違うものを一つ見つけてみましょう。
通り道の花。
空の色。
果物の香り。
誰かの笑顔。
そして、見つけたら自分に聞いてみてください。
「私は今、何を感じた?」
答えは一言でも大丈夫。
その小さな発見が、明日の自分の行動を変えるきっかけになるかもしれません。
研究参考資料
Fredrickson, B. L. (2001). The Role of Positive Emotions in Positive Psychology: The Broaden-and-Build Theory of Positive Emotions. American Psychologist, 56(3), 218–226.