「私、今度新しい仕事を始めることにしたの。」
久しぶりに会った友人が、うれしそうに話してくれました。
「えっ、すごいね! よかったね。」
そう答えながら、心のどこかで、少し羨ましい気持ちが生まれました。
私も何か始めてみたい。
ずっと気になっていることがある。
でも、その次の瞬間、
「もう、この歳だから。」
「今さら何ができるの?」
「失敗したら恥ずかしいし。」
そんな言葉が浮かんできたのです。
まだ何も始めていないのに、どうして私は、自分の未来に答えを出してしまうのでしょう。
何か新しいことをしようとするとき、私たちは自然と過去を振り返ります。
今まで経験があるか。
資格を持っているか。
以前、うまくできたか。
失敗したことはないか。
それは、自分を守るための大切な判断でもあります。
でも、過去に経験がないということは、未来にもできないという意味なのでしょうか。
例えば、初めて自転車に乗れたとき。
乗れるようになる前の自分には、乗れた経験がありませんでした。
それでも、練習しているうちに、ある瞬間、乗れるようになった。
できなかった自分の中に、まだ知らない可能性があったのです。
脳科学では、大人になってからも、学習や経験によって脳の働きや構造に変化が生じることが研究されています。
例えば、ドイツの研究者ドラガンスキーらは、成人がジャグリングを練習する前後の脳を調べ、練習に伴う脳構造の変化を報告しました。
もちろん、この研究だけで、何歳でも何でもできると言えるわけではありません。
それでも、大人になったら新しいことを学ぶ力が完全になくなる、という考え方は正しくありません。
今までできなかったことと、これからもできないことは、同じではないのです。
48歳になった人には、48年間の人生があります。
60歳の人には、60年間の人生があります。
家族のために使った時間。
仕事に向き合った時間。
誰かを支えてきた時間。
思い通りにならなかった経験。
それらを捨てて、新しい自分になる必要はありません。
むしろ、これまでの経験を持ったまま、
「ここから私は、何をしてみたい?」
と問い始めることができるのです。
未来は、過去の延長である必要はありません。
過去の自分が知らなかったことを、これからの自分が体験することもできるのです。
JLBAが大切にしているのは、今の自分を否定して、別の人間になることではありません。
今までの人生を受け入れながら、自分で考え、選び、行動すること。
そして、その体験から、まだ知らなかった自分の可能性を発見することです。
「もう、この歳だから。」
その言葉が浮かんだとき、
「では、今の私だからこそ、何ができるだろう?」
と聞き直してみませんか。
今日は、ノートに一つだけ書いてみてください。
「本当は、いつかやってみたいと思っていたこと。」
できるか、できないかは、まだ考えなくて大丈夫です。
誰かに見せる必要もありません。
ただ、ずっと心の中にあった小さな願いを、言葉にしてみる。
そこから、未来への一歩が始まるかもしれません。
研究参考資料
Draganski, B. et al. (2004). Changes in grey matter induced by training. Nature, 427, 311–312.